「宝島(真藤順丈)」が素晴らしかったので、同じ作者のKindleで「墓頭(ボズ)」を読んでみた。
異形の姿の「墓頭(ボズ)」を中心に、日本、そしてアジアを描く壮大なノワール小説である。
頭の中に双子だった兄弟の死体が入っている「墓頭」。異形の姿である墓頭の人生には常に死がつきまとう。孤児だった少年期、異能の児童が集まる施設、毛沢東時代の中国、ポル・ポト時代のカンボジアなど、大虐殺が起こったアジアの歴史とともに現代へと進んでいく。
物語は墓頭の孫が、墓頭について詳しいという養蚕家から話を聞くという形となっている。孤島に住む養蚕家は何者なのか? 養蚕家を探し当てた新実探偵の正体は? というのもミステリーの要素の一つ。
読む人を選ぶ小説である。想像もしたくないような残酷な描写も多々あるので、苦手な人は避けたほうが無難だ。
それでも傑作と断言できるし、読み終わった衝撃は村上龍の「愛と幻想のファシズム」レベルかも知れない。
主人公はいわゆる「シャムの双生児」として生まれるが、兄弟は胎児の時点で死亡しており、体内の頭のコブの中に死体として存在している。これが墓頭の由来だ。これは決してファンタジーではなく、現実でも報告されている現象である。
墓頭以外のキャラクターも魅力的。教育者ホウヤ、美少年シロウと心を閉ざした弟ユウジンのサワラ兄弟、霊感少女アンジュ、そして最大のキーマンである天才児ヒョウゴ。とくに、「謎」を愛し、相手の心理を操るヒョウゴは作中群を抜いてヤバいキャラクターだ。ジェノサイドのあった毛沢東時代の中国と香港、そしてポルポト、クメール・ルージュ時代のカンボジアの描き方も素晴らしい。
繰り返しになるが、グロテクスな描写が苦手なら避けたほうが良い。しかし、ノワール小説好きならぜひ読んでみてほしい。