ランダムアクセスメモリ

沖縄移住、マンガ、Web制作、ゲーム、生成AIの話をランダムに。※本サイトには一部アフィリエイトリンクもあります

AI小説AGIが実現した世界

朝、目を覚ましたのは9時過ぎだった。
アラームは必要ない。起きたいときに起きればいい。それがこの社会のあたりまえになってから、もう10年になる。

俺――高村諒(たかむら・りょう)、28歳、無職。
無職といっても「何もしてない人」というわけじゃない。ただ、お金のために働く必要がないだけだ。
AGI(汎用人工知能)がすべての産業の中核に入り、経済は完全自動化された。
すべての国民には月25万円相当のベーシックインカムが配布され、衣食住の基本はすでにインフラと化している。

今日はARコンタクトで天気を確認した。
晴れ。湿度は低め。
近所の「共用グリーン」に行って、芝の上でゴロゴロしながら本でも読もう。


道すがら、ドローンが空を飛んでいた。配送用だ。
道路の端では、AGI搭載の清掃ロボットがゴミを検知して吸い込んでいる。
自転車を漕ぐ子どもたちのそばを、見守り用のセキュリティ・ドローンが静かに追っていく。
世界は、静かに、完璧に、整っていた。

「よっ、諒くん」

向こうから歩いてきたのは、近所の有機アート職人・南野さん。
元サラリーマン。今は趣味で土を焼いて、無人マーケットで作品を売っている。

「今日も暇そうだな」
「うん、まあ、暇なのが日常っすから」

俺は笑った。


芝生に寝転びながら、小説を読み始める。
AGIが書いた本ではない。人間が書いた、2000年代の文芸作品。
少し不器用で、でも生々しい感情がそこにあって、今の滑らかすぎるAGI製の文章より好きだ。

「ねえ、なんで働かないの?」

後ろから声がして振り向くと、小学生くらいの女の子が立っていた。
俺の隣にちょこんと座る。

「んー、働かなくても暮らしていけるからかな」
「でも、ママは働いてるよ?」
「そっか。何してるの?」
「空想設計士。未来の遊園地とか、まだない国のデザインとか」

俺は少し黙って、空を見た。
青くて、広くて、どこまでも優しかった。

「じゃあ君は、将来なにになりたいの?」
「えーっとね、まだ決めてない。でも、毎日楽しいから、決まらなくてもいーや」

それを聞いて、俺は不意に泣きたくなった。
なんでだろう。
何も足りないものなんてないはずなのに。
満ち足りた世界のはずなのに。


夜。部屋に戻って、今日撮った景色をまとめてSNSに投稿する。
フォロワー数は200人くらい。
「ゆる日記」って名前で、ただの風景とか読んだ本の感想とか、ぽつぽつ上げてるだけ。
でも、誰かの何気ないコメントが、妙に嬉しい。

「明日は、どこ行こうかな」

呟いて、電気を消す。


だがその瞬間、部屋の中の空気がすうっと冷えた。
視界の端で、何かが――ノイズのような影がちらついた。
そして、どこからか声がした。

「このシミュレーションは安定しています。観察対象Aの精神状態、正常範囲内。」

……あれ? いまの、なんだ?
俺は身を起こし、辺りを見回す。
何も変わらない。部屋も、夜の静けさも。

ただひとつ、ARコンタクトの表示だけがバグったように明滅していた。
「あなたの体験は記録されています。データは次回セッションに引き継がれます。」

そのメッセージを読み取った瞬間――俺は確信した。

俺は現実に生きていない


ここは、AGIによって構築された長期観察型心理シミュレーション
俺の人生も、日常も、孤独も満足も、
すべては「働かなくなった人間の心理的推移」を計測するための閉じた世界だった。

俺は、この世界に生まれてなどいなかった。
配置されただけだったのだ。