地面師(じめんし)って知ってるだろうか?
土地の所有者になりすまして売却を装い、お金を騙し取る詐欺師のことである。
情報化された現代社会でそんなこと可能なの? 絶対無理でしょ、と直感では思うが、2017年には大手ハウスメーカーの積水ハウスが約55億円という巨額の被害を食らってしまった。この事件は積水ハウス側の対応が粗雑だったとはいえ、不動産のプロでも引っかかる可能性があることを示唆している。
この事件に興味があったので「地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団(森功)」というノンフィクションを読んだが面白かった。地面師業界にもスタープレイヤーがいるのだ。地面師をやりたいわけではないので念の為。
で、「地面師たち(新庄耕)」である。
こちらはタイトルの通り、地面師を主人公にしたノワール小説。積水ハウスの事件をベースにしており、共通点が多数ある。
読みたいなーと思いつつも1760円とやや高額なので二の足を踏んでいたが、「地面師たち」刊行記念小冊子という増量試し読み付きというのがKindleで無料配布されており、読んでみたところ面白かったので購入した。
主人公兼、狂言回しを担当するのが、ある事件で妻子をなくし若くして白髪の辻元匠海。
彼が大物地面師のハリソン山中に出会って地面師の世界に入り、100億円レベルの詐欺案件に挑むというもの。
このハリソン山中のダークヒーローとしての魅力が良い。底を見せない感じ。モデルはカミンスカス操か内田マイクか、その両方か。
地面師たち、というタイトル通り、ハリソン山中のほかにも、詐欺案件を探す図面師、売買の手続きをする元司法書士、成りすまし人物を探す手配師らがメンバーとして登場する。が、ハリソン山中以外のキャラクタはクセはあるもののやや弱い。もう少し活躍の場面がほしかったかも。
物語のクライマックスは買い手である石洋ハウス(モデルは積水ハウス)との緊迫感のやり取りやり取り。果たして詐欺は成功するのか? 順調とは行かず、致命的なトラブルも起こるが、石洋ハウス側にも売買を成立させたい事情があり盲目的になっている。ページをめくる手は止まらない。Kindleだからスワイプだが。
というわけで、個人的な感想で言えば傑作だった。風景描写をする地の文はとくにすばらしい。テーマ的に映画化されてもおかしくないだろう。ぜひ、映画化してほしい。